交通事故による脊髄損傷(四肢麻痺)。後遺障害等級と家屋改造費用の請求

交通事故によって脊髄(せきずい)を損傷し、「四肢麻痺(ししまひ)」という極めて重い後遺症を負ってしまった被害者の方、そして被害者の方を支えるご家族。

「これまで当たり前だった日常生活が一変し、これからどう生きていけばいいのか分からない」

「車椅子生活や寝たきり生活になり、自宅のバリアフリー改造や介護に莫大な費用がかかる」

「相手の保険会社から提示された賠償金で、本当に今後の人生を支え切れるのだろうか」

加害者に対する怒り、事故の後悔、受け入れがたい現実、将来への不安…。多くの感情が何度も繰り返し現れます。そのような中で精神的に疲れ、途方に暮れていらっしゃるのではないでしょうか。

四肢麻痺を伴う脊髄損傷は、数ある交通事故の後遺障害の中でも最も重い等級(1級や2級)に該当する可能性が高く、賠償金の総額も数千万円から数億円規模に達する極めて重大なケースです。

しかし、賠償金額が非常に高額になるからこそ、相手方の任意保険会社は「家屋改造費を全部みることはできない」「将来の医療費や介護費は認められない」などと争ってくることがあります。あるいは極めて丁寧に対応するものの、いざ賠償金の支払いの段階になると、蓋を開けてみたら、「将来の医療費や介護費に関する補償がどこにも記載されていない」ということがあります。

正当な補償を受けることができなければ、将来の経済的負担や介護負担等で、被害者の方やご家族の生活が破綻してしまう危険性すらあるのです。

本記事では、交通事故の被害者側の代理人として長年注力してきた広島の弁護士が、脊髄損傷(四肢麻痺)の後遺障害等級の認定基準、家屋改造費や将来介護費の請求方法、そしてご家族の負担を減らし適正な賠償金(弁護士基準)を受け取るために必須となる知識を詳細に解説します。

目次

1. 脊髄損傷と「四肢麻痺」の基礎知識

まずは、脊髄損傷と四肢麻痺がどのような状態であるのか、簡単に解説します。

1-1. 脊髄損傷とは

脊髄とは、脳から背骨(脊柱)の中を通って下へ伸びる太い神経の束です。脳からの指令を全身に伝え、逆に全身からの感覚を脳に伝える重要な役割を果たしています。例えば、「右手を挙げる」という指令を出したり、「足をぶつけて痛い」という感覚を伝えたりします。

交通事故による強い衝撃(頚椎捻挫の重篤なもので頚椎脱臼骨折など)でこの脊髄が損傷すると、損傷した部位よりも下(遠位といいます)の神経伝達が遮断されます。その結果、深刻な麻痺や感覚障害、排泄障害等が発生します。どのような障害が生じるかは、「どの高さで損傷したのか」「全部を損傷したのか一部損傷か」によって異なります。

1-2. 「四肢麻痺(ししまひ)」とは

麻痺が生じる範囲によって名前が異なりますが、「四肢麻痺」とは、両方の腕(上肢)と両方の足(下肢)のすべてに麻痺が生じている状態を指します。

四肢麻痺になると、食事、入浴、排泄、着替え、移動といった「命を維持するための基本的な日常生活動作(ADL)」のほとんどで、他者の介護や全自動車椅子の補助が必要となります。

2. 脊髄損傷(四肢麻痺)で認定される後遺障害等級

後遺障害等級認定において、脊髄損傷は「麻痺の範囲(四肢麻痺、片麻痺及び単麻痺)」と「麻痺の程度(高度、中等度及び軽度)」、そして「日常生活において介護が必要な程度」によって等級が決定されます。

四肢麻痺の場合、主に以下の等級(別表第一の1級または2級、または3級)が該当します。

後遺障害等級

認定基準・麻痺の状態

労働能力喪失率

弁護士基準の後遺障害慰謝料目安

別表第一 第1級1号

神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(高度の四肢麻痺、または中等度の四肢麻痺で食事・入浴・用便・更衣等について常時介護が必要)

100%

2,800万円

別表第一 第2級1号

神経系統の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(中等度の四肢麻痺、または軽度の四肢麻痺で食事・入浴・用便・更衣等について随時介護が必要)

100%

2,370万円

第3級3号

神経系統の機能に著しい障害を残し、(生命維持に必要な動作は可能だが)障害のため終身労務に服することができないもの(軽度の四肢麻痺)

100%

1,990万円

※後遺障害慰謝料の額は「弁護士基準(裁判所基準)」の場合です。相手方の自賠責基準や任意保険基準の提示額はこれよりも大幅に低くなります。

2-1. 「1級1号」と「2級1号」の違い(常時介護と随時介護)

1級と2級では、ともに労働能力を100%喪失していますので逸失利益に差はありません。しかし、「後遺障害慰謝料」や「将来介護費」、「家屋改造費」等の認定に違いが生じます。そのため、1級の違いであっても、適切な等級認定を受けることが被害者の方やご家族の今後の生活を左右しかねません。

3. 適切な後遺障害等級(1級・2級)の認定を受けるための3つのポイント

保険会社や審査機関(損害保険料率算出機構)は、被害者の方やご家族の現状を直接確認して、1級や2級の判断を行うわけではありません。脊髄損傷で適切な等級の認定を受けるためには、厳密な立証が必要です。

この立証は大きくわけると、入口の問題(事故で脊髄損傷したといえるか)と出口の問題(どの程度の障害を負ったのか)があります。どこが問題となるのか、事前にしっかりと整理しておくことが重要です。

3-1. ① 画像(MRI・CT)による立証 ※主に入口の問題

脊髄損傷の立証において最も基本となるのが、「MRI画像やCT画像」です。

事故直後のMRI画像で、脊髄の不連続(断裂)、圧迫、信号変化(輝度変化・出血・水腫など)がはっきりと確認できる必要があります。

※受傷から時間が経つと画像上で損傷部位が分かりにくくなるケース(非骨傷性脊髄損傷など)もあるため、事故直後・初期段階での高精度なMRI撮影が重要です。

3-2. ② 神経学的検査(麻痺の程度)の実施 ※主に出口の問題

画像検査だけでなく、主治医による「神経学的検査(各種テスト)」の結果を「後遺障害診断書」に詳細に記載してもらう必要があります。

3-3. ③ 「日常生活動作(ADL)の状況」を証明する書類

審査機関は「実際に被害者がどれくらい自力で動けるか」を慎重にチェックします。

そのため、ご家族が作成した「日常の介護状況に関する陳述書(報告書)」、病院の看護師が記録した「看護記録」、理学療法士の「リハビリ記録」等を提出し、食事や排泄にどれだけの介護を要しているかをできる限り客観的に証明することが求められます。

4. 脊髄損傷(四肢麻痺)で請求できる主な賠償項目と金額の目安

四肢麻痺となった場合、加害者に請求できる損害賠償金の項目は非常に多岐にわたります。

  1. 治療費・手術費・リハビリ費(実費)
  2. 傷害慰謝料(入通院慰謝料): 入院期間や通院期間に応じた慰謝料
  3. 休業損害: 事故から症状固定までの減収補償
  4. 後遺障害慰謝料: 1級であれば2,800万円、2級であれば2,370万円程度
  5. 後遺障害逸失利益: 将来得られるはずだった収入の補償(労働能力喪失率100%)
  6. 将来の治療費: 将来発生すると見込まれる治療費
  7. 将来介護費用(重要): 将来にわたってかかる介護サービス等の費用
  8. 家屋改造費用・自動車改造費用(重要): 自宅や車のバリアフリー化費用
  9. 将来雑費(介護用品代): 紙おむつ代、カテーテル代、車椅子購入・買い替え費など
  10. 近親者固有の慰謝料: 介護を余儀なくされるご家族自身の精神的苦痛に対する慰謝料

この中でも、保険会社と争いになりやすく、金額も大きくなりやすい「家屋改造費用」と「将来介護費用」について詳しく解説します。

5. 自宅のバリアフリー化!「家屋改造費用」の請求方法と裁判例

車椅子生活や常時介護が必要となった場合、これまで住んでいた自宅のままでは生活できません。段差の解消、ドアの引き戸化、車椅子用エレベーターの設置、浴室やトイレの拡張など、「家屋改造(バリアフリー工事)」が必要になります。

この家屋改造費用は、「必要」かつ「相当」な範囲内であれば、交通事故で発生した損害として賠償請求することが認められています。しかし、金額が高額になりがちなため、保険会社は少しでも支払額を減らそうと、強く反論してくる項目でもあります。

5-1. 家屋改造費用として請求できる代表的な工事内容

5-2. 保険会社が争ってくる「3つのポイント」と対策

保険会社は、家屋改造費用の見積もりを提出すると、以下のような反論をしてきます。

反論①:「改造の範囲が広すぎる・過大だ(必要性・相当性の否定)」

保険会社は「改造は車椅子で移動する部屋とトイレだけで十分だ。家全体の改造費用を払う必要はない」と主張してきます。

反論②:「家屋の価値が上がり、家族も快適になる(家族の利便性による減額の主張)」

「バリアフリー化によって家自体の価値が上がった」「同居する家族も使いやすくなったのだから、全額ではなく一部カット(例:30%減額)すべきだ」と主張してきます。

反論③:「新築・建て替え・引っ越し費用までは出せない」

借家や築年数が古い家の場合、一部の改造では対応できず「家を建て替える」「新築のバリアフリーマンションに買い替える」しか選択肢がないケースもあります。新しく購入したり建て替えたりすると、その分資産としても残るため、保険会社側は被害者側が利益を得ているという言い方で支払いを拒絶しようとします。

5-3. 家屋改造費を認めてもらうための手順

  1. 工事に着工する「前」に弁護士に相談する: 工事に加害者側が関与することは少ないため、被害者側で工事を完了させてから事後的に請求しても、保険会社に拒否されるリスクがあります。
  2. 専門の建築業者にバリアフリー工事の見積書と図面を作成してもらう: 通常工事とバリアフリー工事の明細を分けてもらいます。
  3. 医師やリハビリ担当者、ケアマネージャー等に工事内容の必要性について「意見書」を書いてもらう: 医学的な裏付けを作ります。
  4. 弁護士を通じて保険会社と事前交渉(または訴訟)を行う: 早期に資金が必要な場合は、事前払い(内払金)の交渉も並行して行います。

6. 将来の安心を確保する「将来介護費用」の計算方法

四肢麻痺の事案で、家屋改造費と並んで高額な請求になりがちであるのが「将来介護費用」(将来の付添費)です。これは、症状固定の日以降、亡くなるまでの間(平均余命まで)、一生涯にわたってかかる介護費用を前払いしてもらう補償です。

6-1. 日額単価の相場(誰が介護するかで決まる)

将来介護費の計算式は以下の通りです。

【 将来介護費 = 1日あたりの介護日額 × 365日 × ライプニッツ係数(平均余命までの年数) 】

1日あたりの介護日額(単価)は、誰が介護を行うかによって相場が決まっています。なお、下記は「常時介護が必要」とされる場合の目安で、介護の程度が少ない場合は実情にあわせて減額した金額になります。

6-2. ご家族の高齢化を見越した「将来のプロ介護への移行」の主張

「今はお母さんが付き添って介護できているから、近親者単価(日額8,000円)で十分でしょう」と保険会社は主張してきます。

しかし、ご家族も高齢化すれば、いずれ老老介護となり、家族だけで介護を続けることは不可能です。

弁護士が介入する場合、「○歳までは母親が介護するが、それ以降は母親が高齢化するため全額プロのヘルパーに依頼する(日額単価を途中で引き上げる)」という二段階の計算方法で、保険会社に主張し、ご家族による介護が難しくなった場合の将来の安心まで見据えた介護費を請求します。

7. なぜ脊髄損傷(四肢麻痺)の事故は弁護士への相談が強く推奨されるのか?

数ある交通事故の中でも、脊髄損傷(四肢麻痺)の事案は被害者やご家族だけで保険会社と交渉することはお勧めできません。 その理由は明確です。

7-1. 保険会社提示額と「弁護士基準(裁判所基準)」で数千万円〜億単位の差が出る

保険会社が提示してくる自賠責基準や社内基準の示談金案は、弁護士が介入した場合の「裁判所基準(弁護士基準)」と比べて低い金額です。この違いは、後遺障害等級が重たいものであればあるほど顕著に差が生じます。

逸失利益の計算、将来介護費の単価設定、家屋改造費の認定可否、将来の介護雑費(車椅子代やオムツ代)の計上など、あらゆる項目で保険会社は賠償金を削ろうとします。あるいは、被害者側から指摘されるまで、そもそも損害として計上しない(もちろん保険会社が正確に被害者側の生活実態を把握できていないことで、損害の存在に気づいていない)というケースも多くあります。

弁護士が介入し、示談交渉あるいは裁判(訴訟)を起こすことで、賠償金総額が数千万円から1億円以上増額するケースは当たり前のように存在しているのが実情です。

7-2. ご家族の心理的・肉体的負担を軽減する

ただでさえ、ご家族は毎日病院へ付き添い、四六時中の介護、主治医やリハビリ専門医との面談、転院先や介護施設の選定などで、心身ともに限界まで疲弊しています。

その状況で、将来のことも考えた損害賠償を整理することは困難です。何より法的な知識を持った保険会社の担当者から「この工事費用は出せません」「介護費用はこれ以上払えません」と厳しい交渉を突きつけられるのは、耐えがたい精神的苦痛です。

弁護士を代理人に立てることで、保険会社からの連絡や交渉の窓口はすべて弁護士になり、ご家族は交渉のストレスから解放され、被害者のケアと将来の生活準備に専念することができます。

8. 弁護士費用特約の確認と「費用倒れ」の心配不要について

重度の脊髄損傷(四肢麻痺)事案の場合、賠償金総額が数千万円〜数億円に達するため、「弁護士費用が高額になるのではないか」と心配されるご家族もいらっしゃいます。

8-1. 弁護士費用特約を活用する

ご自身や同居のご家族(場合によっては別居の親族)が加入している自動車保険や火災保険に「弁護士費用特約」が付帯されていれば、弁護士費用(最大300万円まで)は保険会社が負担してくれます。なお、弁護士費用特約は複数の車両をお持ちの場合、複数利用できることがありますので必ず漏れなくチェックしてください。後遺障害等級が1級や2級になると、弁護士費用特約を超過し、自己負担が生じる可能性もありますが、私たちの経験上、弁護士介入によるメリット(賠償金額の増額幅)のほうが大きいです。

8-2. 特約がなくても「完全着手金0円・成功報酬制」で依頼可能

仮に弁護士費用特約がなかったとしても、四肢麻痺のような重篤な事案では、多くの法律事務所が「着手金0円(費用後払い方式)」で依頼を引き受けています。

賠償金が実際に支払われた後に、成功報酬をいただく方式のため、被害者やご家族が事前に持ち出しで費用を払う必要は基本ありません。 

また、前述のとおり、増額幅が非常に大きいため、弁護士費用を差し引いても、手元に残る賠償金は被害者ご自身で交渉するより高額になるのが通常です。

さらに、四肢麻痺のような重篤な事案の場合、賠償金が高額になり、それに比例して弁護士費用も高くなりがちです。そこで、将来の生活資金の不安を少しでも軽減するという観点から、弁護士事務所によっては、①弁護士報酬の割合(賠償金額の何〇%)を少なくした費用体系を採用していたり、②賠償金額の提示がすでになされている場合には、最終的に増額した金額以上は弁護士費用をもらわないという費用体系を採用していたりすることもありますので、慎重に検討されるのが良いと思います(当事務所は①と②の費用体系を採用しています)。

9. まとめ:被害者とご家族の「これからの人生」を守るために

交通事故による脊髄損傷(四肢麻痺)は、被害者ご本人の人生だけでなく、支えるご家族の人生をも大きく変えてしまいます。

失われた身体機能や日常を完全に取り戻すことはできません。しかし、適正で十分な賠償金(家屋改造費、将来介護費、後遺障害慰謝料、逸失利益など)の支払いを受けることは、被害者の方が将来にわたって尊厳ある生活を送り、ご家族が無理なく介護を続けていくために、極めて重要なポイントになります。

相手方の保険会社は、どんなに言葉が丁寧であっても、賠償金を少なくしようとします。被害者側とは「利益が相反する立場」であることを忘れてはいけません。

どのようなお悩みでも構いません。示談書にサインをしてしまう前に、あるいは家屋改造工事に着手してしまう前に、まずは一度、交通事故の解決実績が豊富な広島の当事務所の無料出張相談・無料法律相談をご利用ください。

被害者とご家族が抱える不安を少しでも解消し、将来にわたって安心して過ごせる生活環境を守るために、当事務所が全力でサポートいたします。

関連ページ

ご相談はこちらからCONTACT

サービス内容に関するご質問やご不明な点などが
ありましたら、
こちらよりお問い合わせください。