専業主婦(主夫)でも交通事故の休業損害はもらえる?計算方法を解説

交通事故に遭い、むち打ちや骨折などのケガを負うと、日常生活に大きな支障をきたします。特に、家事や育児を一手に担っている専業主婦(主夫)の方が交通事故に遭った場合、「痛みをこらえながら家事をしなければならない」「料理ができなくなった」「思うように家族の世話ができない」といった深刻な悩みに直面します。

このときに多くの方が疑問に思うのが、「自分は外で働いておらず、収入がない専業主婦(主夫)だけど、これだけ大変な思いをしているのに、何も補償はないの?」ということです。

結論から申し上げますと、専業主婦(主夫)であっても、交通事故による休業損害を正当に受け取ることができます。

しかし、保険会社から提示される金額には、主婦としての休業損害が含まれていなかったり、含まれていても本来受け取れるはずの金額よりも大幅に低かったりするケースが非常に多いのが実情です。正しい知識を持っていなければ、知らず知らずのうちに損をしてしまう可能性があります。

今回は、専業主婦(主夫)が休業損害をもらえる法的な根拠から、具体的な計算方法、そして「弁護士基準」を用いることで賠償金が大きく増額する理由まで、交通事故の被害者が知っておくべき情報を詳細に解説します。

1. 専業主婦(主夫)でも休業損害が認められる理由

「休業損害」とは、交通事故によるケガの治療のために仕事を休み、その結果として減少してしまった収入を補償するものです。会社員やアルバイトであれば、勤務先に作成してもらう休業損害証明書によって、減少した収入を簡単に証明できます。

専業主婦(主夫)は、金銭収入がありませんし、休んだことを第三者が証明してくれるわけでもありません。

では、なぜ専業主婦(主夫)に休業損害が認められるのでしょうか。

1-1. 家事労働には「金銭的価値」がある

法律上、主婦(主夫)が行う「家事労働」は、立派な金銭的価値のある労働として認められています。判例でも、主婦(主夫)の「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならない」、家事労働は「財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも」と明確に判断されています(最高裁判所昭和49年7月19日判決、同旨のものとして最高裁判所昭和50年7月8日)。この扱いは実務上確立しています。

判例で述べられているように、食事の準備、掃除、洗濯、買い出し、子供の世話など、家事全般を第三者(家事代行サービスや家政婦など)に依頼した場合、当然ながら対価として費用が発生します。つまり、主婦(主夫)は「他人に頼めばお金がかかる労働」を自ら行い、家族に提供しているのです。

交通事故のケガによって、これまで当たり前にできていた家事ができなくなった場合、それは「労働能力が低下し、本来生み出していたはずの経済的利益が損なわれた」と解釈されます。そのため、実際の現金収入がなくても、休業損害として金銭的な補償を請求することが法律で認められているのです。

1-2. 対象となる「家事従事者」の範囲

休業損害が認められる「家事従事者」は、一般的な専業主婦に限定されません。以下のようなケースでも、家事労働の価値が認められれば休業損害を請求できます。

※ただし、一人暮らしの方(単身者)が自分のためだけに家事を行っている場合は、原則として「他人のために労務を提供する家事労働」とはみなされず、休業損害の対象外となります。

2. 主婦の休業損害を計算する「3つの基準」

交通事故の慰謝料や休業損害を計算する際には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」という3つの異なる基準が存在します。

どの基準を用いて計算するかによって、主婦の休業損害の「1日あたりの単価(基礎収入)」が全く異なり、最終的な受取金額に数十万円〜数百万円の差が生じることもあります。

2-1. 自賠責保険基準(最低限の補償)

自賠責保険は、車を運転するすべての人が加入を義務付けられている強制保険です。被害者への最低限の救済を目的としているため、3つの基準の中で最も金額が低く設定されています。

自賠責保険基準による主婦の休業損害は、原則として1日あたり一律「6,100円」と定められています。 (※令和2年3月31日以前に発生した事故の場合は、1日あたり5,700円となります)

家事に支障が出た日数が何日であれ、自賠責基準で計算される場合は1日あたり6,100円が上限(実額がこれを超えることを証明できる特別な場合を除く)となります。

休業日数は、傷害の程度や実際の通院日数等を考慮して個別に決定されます。

2-2. 任意保険基準(保険会社の独自基準)

任意保険基準とは、加害者が加入している任意保険会社が、示談交渉の際に独自に用いる社内基準です。保険会社によって基準は異なりますが、一般的には公開されていません。

しかし実態としては、自賠責保険基準の「1日6,100円」と同額程度の金額で提示してくることがほとんどです。

保険会社は営利企業であるため、できるだけ支払う賠償金を低く抑えようとします。そのため、「主婦の方は1日6,100円で計算するのが決まりです」と、さもそれが上限であるかのように被害者に説明してくるケースが多々あります。

2-3. 弁護士基準(裁判所基準・適正な補償)

弁護士基準(裁判所基準)は、これまでの判例や裁判例に基づいて算定される基準で、法的には最も適正な基準です。弁護士が被害者の代理人として交渉する際や、裁判になった際に用いられます。3つの基準の中で最も高額になる傾向にあります。

弁護士基準では、主婦の家事労働の価値を「賃金センサス」という国の統計データを用いて算出します。

具体的には、「全女性労働者の平均賃金」を基礎収入として用いるのが一般的です。 令和6年(2024年)の賃金センサス(第1巻第1表・女性労働者・全年齢計・学歴計)によると、年収は4,194,400円です。これを365日(※厳密には閏年であるため366日ですが被害者側としては365日で計算すべきです)で割ると、1日あたりの基礎収入は約11,492円(四捨五入)となります。

自賠責保険基準の「6,100円」と比較すると、1日あたり約5,400円もの差があります。仮に休業日数が60日だとすれば、それだけで約32万円もの差額が生じる計算になります。

3. 【弁護士基準】主婦の休業損害の詳しい計算方法

「弁護士基準」を用いた場合の、主婦の休業損害の具体的な計算方法についてさらに詳しく解説します。

計算の基本となる式は以下の通りです。 【 休業損害 = 基礎収入(1日あたりの単価) × 休業日数(家事に支障が出た日数) 】

3-1. 基礎収入(1日あたりの単価)の求め方

前述の通り、専業主婦の基礎収入は「賃金センサス(政府が毎年発表している賃金統計)」の「女性労働者・全年齢・学歴計」の平均賃金をベースにします。

賃金センサスの平均賃金は、休業した年に対応するデータを用います。 (例:令和6年に休業した分については、令和6年の賃金センサスの平均賃金で算定し、上記のとおり日額は11,492円となります。)

なお、「高齢の主婦」の場合には注意が必要です。 被害者が高齢の場合、全年齢の平均賃金を適用すると、実際の労働能力よりも高く評価されすぎるとして、保険会社から争われることがあります。その場合は、「年齢別の平均賃金」を基礎収入として用いるよう調整されるケースもあります。

3-2. 休業日数の認定方法

主婦の休業損害において、最も揉めやすいのが「休業日数(家事ができなかった日数)」の捉え方です。会社員のように「欠勤扱いになった日数」という明確な証拠がないためです。

休業日数のカウント方法には、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。

① 実通院日数を休業日数とする方法

実際に通院した日のみ、「家事ができなかった日」としてカウントする方法です。 計算がシンプルであるため、保険会社側から「通院した日だけお支払いします」と提案されることがよくあります。 (例:治療期間3ヶ月のうち、実際に通院したのが30日であれば、30日分のみを休業損害とする)

② 総治療期間を休業日数とする方法

事故日から治療終了(症状固定)までの「全日数」を休業日数とする方法です。そして、期間を通じて平均的な休業割合を認定し(例えば一律20%等)、休業損害を算定します。裁判所でも比較的採用されやすい算定方法です。

例:休業損害=日額×総治療期間100日×20%(休業割合)

③ 逓減(ていげん)方式を用いる方法

続いて「逓減方式(徐々に減らしていく方式)」です。 ケガをした直後は家事が全くできなくても、治療を続けるにつれて徐々に回復し、家事ができる割合も増えていくのが一般的です。この回復度合いに合わせて、休業損害の割合を段階的に減らしていく考え方です。

実情に即した判断となりやすくこちらの算定方法も比較的採用されやすい算定方法です。

【逓減方式の計算例(治療期間120日の場合)】

どの割合を何日間適用するかは、ケガの程度(診断名)、通院頻度、実際の家事への支障の程度などを総合的に判断して決定されます。

3-3.小括

休業損害の算定は、これまで見てきたように、どのような請求をするかによってかなり変わります。組立てかたが重要になります。また、どの算定方法にせよ、弁護士基準が高くなる傾向にあるのは間違いありませんが、事案によっては自賠責保険の算定のほうが高くなるというケースも少なからず存在します。この場合、自賠責保険への請求をせずに、安易に裁判すると、結果として自賠責保険から支払いを受けるほうが良かったという結論になる可能性があります。この見通しを判断するのは、豊富な裁判経験がなければ難しいところです。

専門的な判断(見極め)が必要になり、弁護士の腕の見せ所でもあります。

4. パターン別!主婦の休業損害に関する注意点

一口に主婦といっても、家庭の状況は様々です。ここでは状況別の注意点や計算の考え方を解説します。

4-1. 兼業主婦(パート・アルバイトもしくは平均賃金よりも収入が低い方)の場合

パートやアルバイトで収入を得ている主婦の場合、「実際のパート収入」と「賃金センサスに基づく女性平均賃金」のどちらか高い方を基礎収入として計算することができます。これは、正社員であっても同様で、「実際の収入」より「賃金センサスに基づく女性平均賃金」が高ければ、「賃金センサスに基づく女性平均賃金」を採用して休業損害を算定します。

多くの場合、パートの収入額(例えば年収100万円〜150万円程度)よりも、賃金センサスの女性全年齢平均賃金(令和6年であれば約419万円)の方が高くなります。 そのため、兼業主婦であっても、パートを休んだ分の給料の補償だけでなく、「賃金センサスをベースにした主婦としての休業損害」を請求したほうが有利になるケースがほとんどです。

※ただし、パートを休んだ日数分のみを対象とするか、家事への影響期間全体を対象とするかについては、個別の事情に応じて判断されます。

※自賠責保険では週の労働時間が30時間未満でないと主婦(主夫)としての認定がされません。自賠責保険において主婦(主夫)として認定されなくとも、裁判では主婦(主夫)として休業の実態があれば主婦(主夫)休損は認められます。

4-2. 家族(夫や親など)が家事を代わってくれた場合

「自分がケガをして家事ができなかった間、夫や同居の親が家事を代わってくれたので、金銭的な損失は出ていないのでは?」と考える方もいます。

しかし、この場合でも休業損害は請求できます。 家族が無償で家事を負担してくれたのは、あくまで家族間の愛情や協力によるものであり、加害者が賠償義務を免れる理由にはならないからです。

4-3. 家事代行サービスや家政婦を雇った場合

ケガで家事ができないため、やむを得ず実費で家事代行サービスや家政婦を雇った場合は、その「実費」を休業損害として請求することが可能です。

ただし、請求できるのは「ケガの程度からして、第三者に家事を依頼することが客観的に必要かつ相当と認められる範囲」に限られます。事故前から家事代行を日常的に利用していた場合は、事故による損害とは認められない可能性があります。また、過剰に家事代行を利用しても損害として認められるのは必要かつ相当な範囲内に限定されます。 必ず領収書や利用明細を保管しておきましょう。

5. 主婦が休業損害で損をしないための3つのポイント

保険会社は、専業主婦に対して「実際には収入が減っていないのだから」と、休業損害の支払いを渋る、あるいは不当に低い金額で示談を迫る傾向があります。適正な賠償金を受け取るためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

① 整形外科へ定期的に通院する

休業損害(家事に支障が出ていること)を請求する前提として、「医師による治療(通院)が継続されていたこと」が必要になります。 「痛いけれど忙しいから」と通院をしていなければ、保険会社から「すでに治っている」「家事に支障はなかった」などと判断され、休業損害が打ち切られたり、減額されたりするきっかけになります。主治医の指示に従い、適切な頻度で整形外科に通院しましょう。

② 家事への支障を「記録」しておく

会社員のように第三者による休業の証明書が出せない主婦(主夫)にとって、自己申告を裏付ける証拠が必要になります。 事故後、日記やメモ帳、LINE等で以下のようなことを記録しておくことをお勧めします。

こうした具体的な記録が、後々休業割合を決定する際の有力な交渉材料となります。

③ 保険会社からの「示談案」にすぐサインしない

治療が終了すると、保険会社から慰謝料や休業損害の金額が記載された「示談金提示書」が送られてきます。 前述の通り、この書面に書かれている休業損害は「自賠責基準(1日6,100円)」で計算された低い金額であることがほとんどです。

一度示談書にサインをしてしまうと、後から「やはり弁護士基準で計算し直してほしい」と覆すことは原則として不可能です。金額に少しでも疑問を感じたら、サインをする前に必ず弁護士に内容を確認してもらいましょう。

6. 専業主婦(主夫)の休業損害に関するよくある質問(Q&A)

  1. 夫が専業主夫をしていますが、男性でも休業損害は認められますか? A 認められます。性別は関係ありません。家庭内で家事を専従で行っている実態があれば、「家事従事者」として休業損害の対象となります。基礎収入については、男性であっても、女性労働者の平均賃金(全年齢・学歴計)を用いるのが実務上の扱いです。
  2. 入院中は家事が全くできませんが、通院期間中も休業損害は認められますか? A. はい、認められます。入院中は100%の休業として計算されますが、退院後や通院のみの期間であっても、ケガの影響で家事に支障が出ている間は、その制限の度合い(割合)に応じて休業損害を請求できます。
  3. 働いていないことを証明する書類は必要ですか? A. 専業主婦(主夫)であることを証明するために、特別な書類(所得証明など)を求められることはありますが、必須ではありません。多くの場合、同居の家族構成の申告書や、配偶者の扶養に入っている事実(健康保険証など)によって、専業主婦(主夫)であることが認定されます。

7. まとめ:主婦(主夫)の休業損害は、弁護士に相談して、増額を目指しましょう

ここまで解説してきたように、専業主婦(主夫)の方であっても、交通事故による休業損害を正当に受け取る権利があります。

しかし、保険会社が提示してくる「自賠責基準(1日6,100円)」と、法的に適切な「弁護士基準(令和6年であれば1日約11,492円)」とでは、受取金額に雲泥の差があります。

治療期間が長引けば長引くほど、その差額が膨れ上がることも珍しくありません。

被害者ご自身で保険会社と交渉し、「弁護士基準で支払ってほしい」と主張しても、広島の保険会社が素直に応じる可能性は高くありません。「これが当社の規定の限度額です」と拒絶されるケースが多いのが現状です。

弁護士基準を引き出すための確実な方法は、「交通事故に強い弁護士に交渉を依頼すること」です。

家事への支障という、目に見えにくい辛さを抱えている主婦(主夫)の方こそ、専門家である弁護士のサポートが必要です。保険会社から示談の提示があった方、あるいは現在治療中で今後の生活に不安がある方は、まずは一度、広島市の当事務所で無料相談をご利用ください。適正な休業損害を受け取ることができるように、ベストな解決策をご提案いたします。

 

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