相手方による速度超過の主張を刑事記録をもとに否定するとともに、醜状障害が慰謝料増額の理由として認められた事案

相手方による速度超過の主張を刑事記録をもとに否定するとともに、醜状障害が慰謝料増額の理由として認められた事案

事件概要

  • 被害者:50代男性
  • 事故の分類:バイクで直進中に左方から進入してきた車と衝突
  • 傷病名:大腿骨骨折等
  • 後遺障害等級等:併合9級

依頼のきっかけ

依頼者の奥様からのご相談がきっかけでした。依頼者(ご主人)はバイク事故で大けがをしているにもかかわらず、保険会社から「労災だから自動車保険では対応しない」と一方的に告げられたそうです。労災と自動車保険の関係も分からないし、保険会社の一方的で高圧的な言い方もあって、強い不安を感じていたようです。

また、過失割合も揉めそうであったため、早期にご依頼を決断されました。

解決までの経緯

入院とその後のリハビリ、骨折部の経過観察を含めて、長期間の治療が必要となりました。この間、本件が通勤中の事故であったため、治療費について労災保険で対応すべきであるのか、任意保険会社の一括対応に委ねるべきであるのか、悩ましい問題も生じましたが、諸事情を考慮して結論としては任意保険会社による一括対応にて対応していただくこととなりました。

 

症状固定となって、自賠責保険に対して後遺障害の等級認定手続(被害者請求)をしたところ、併合9級(股関節の可動域制限として10級11号、骨折部分の瘢痕について12級相当)との判断が出されました。

逸失利益で譲歩しつつ、代替案として慰謝料増額

ラグーンでは、依頼者に生じた損害を算定し、相手方の任意保険会社へ請求しました。相手方は、逸失利益について、9級前提ではなく、10級前提で算定すべきとの意見でした。その理由は、併合で等級繰上げの根拠になったのは醜状障害であり、依頼者の職種、年齢、醜状の部位(大腿部)を考慮すれば、醜状が将来の収入に影響を及ぼすことはないから、というものでした。

 

この点については、最近の裁判例の傾向や、依頼者には示談交渉の段階では収入減が生じていない状況であることを考慮し、早期解決に向けて、相手方の言い分を受入れ、その代替案として、当方からは慰謝料の(裁判基準の満額からの)増額を再提案しました。

 

保険会社としては、当方の代替案を受け入れる回答であったため、裁判外で和解となりました。

刑事記録をもとに、根拠のない主張は否定

また、保険会社は、当初、依頼者が大幅な速度超過をしていたとの理由で、過失割合を基本割合から1割ほど依頼者不利に修正すべきとの主張をしていました。しかし、その根拠となる客観的な資料は示されず、当方としては単に保険会社の推測の域を出ない主張であると判断せざるをえませんでした。

ラグーンでは、この主張を否定するために、刑事記録を取得し精査したところ、依頼者側の速度超過を裏付けるような記載はなく、むしろ、少なくとも事故直後は、相手方本人は依頼者側の速度超過の可能性を特に指摘していないということが明らかとなりました。

これらの点を指摘したところ、保険会社は速度超過による過失割合の修正をそれ以上に求めることなく、基準どおりの割合で合意となりました。

弁護士の目 

「醜状障害」で逸失利益は発生するの?答えは「ケースバイケース」

醜状障害で逸失利益は発生するか、という問題については、この問題だけで本が1冊書けるほどに様々な議論がなされ、多くの見解が示されているところです。

また、保険会社の実務上の対応は基本的に逸失利益を通常よりも制限すべきという主張が多いですが、その内容は一律ではありません。例えば、頑なにゼロ主張(つまり逸失利益は発生しないという主張)をすることもあれば、大幅に逸失利益をカットした内容(労働能力喪失率を自賠責の基準よりもかなり少なく認定する等)の主張をすることがあります。

他方で、年齢や職業を考慮して、逸失利益を制限することなく認定するケースもあります。例えば、人に見られる仕事(モデル等)をしている人に傷跡が残れば、収入減につながりやすいことは理解しやすく、このような事案では争いになりにくい(もちろん、被害者側から、一般的な基準よりも多く減収が生じているという方向での主張をするとき等は別です)ように思います。このほか、就職前の若い人であれば、将来の職業選択の幅を狭くする可能性がありえ、ひいてはそれが収入の減少につながるという理由で、逸失利益が通常どおり認定されるということがあります。他には、接客業や営業職といった人との接触が比較的多い職業の場合には、デスクワーク中心の職種に比べると、比較的労働能力の喪失自体は(具体的な労働能力喪失利率は別にして)争いになりにくい傾向かと思われます。

 

裁判では、統一した基準はないように思われ、醜状の内容、被害者の年齢・職業、現実の収入減の有無といった諸事情を総合的に考慮して個別に妥当と思われる逸失利益を認定しています。以前は純粋に「身体的機能や能力の喪失」という観点が重視されていたように思われますが、近時の傾向は「円滑な対人関係の形成に影響があるか」という観点からも踏み込んで個別事案に即して判断をしているのが裁判例の傾向です。

しかし、諸事情を総合的に考慮して個別具体的に判断するという性質上、争いになりやすい問題でもあります。

要するに、保険会社側は逸失利益を否定した裁判例等を根拠に、過度な減額を主張することができてしまうのです。

逸失利益が減額されても、慰謝料の増額で調整を

では、上記のような個別具体的な検討の結果、仮に醜状を理由とした逸失利益が否定されたり制限されたりしたときに、傷跡が残っているという事実は何も考慮されないのでしょうか。裁判では、逸失利益としては考慮しないけど慰謝料を通常よりも増額するといった柔軟な判断がなされることがあります。

 

本件でも、依頼者に減収が生じていなかったこと、依頼者の職業を踏まえると、裁判になった場合は、醜状障害を理由として逸失利益が否定される(あるいは減額される)見込みが高かったため、相手方の立場に基づく言い分を一定程度尊重しつつ、慰謝料を増額してもらうという対案を出すことによって、双方にとって納得がしやすい柔軟な解決を図ることができました。

「バイクは速度を出している」という偏見には、刑事記録できちんと反論

また、本件では、当初、相手方の任意保険会社から、当方(バイク)の速度超過を理由とする過失割合の修正の主張がなされていました。バイクが事故当事者となる場合、バイクは自動車に比べると小さく交差点等で発見が遅れやすい傾向にあり自動車側からすると「突然現れた」という感覚になりやすく、バイク(の形状にもよると思いますが)は速度を出しているというイメージもあってか、相手方から「バイクが速度超過をしていた」という根拠に乏しい主張がなされることが多い印象です。

過失割合の修正については、自己によって有利に割合を修正する側がその事実を証拠によって立証する必要があると考えられています。そのため、今回のケースでは、基本的に相手方において「バイクが速度超過をしていた」ことを立証しなければなりません。しかし、そのような主張立証を待っていては、交渉が遅遅として進まないことも多くあります。今回は、当方が上記の原則とは逆に「修正する理由がないこと」の立証を積極的に行ったケースでしたが、早期解決のために、ときにはこのような活動が必要になることもあります。

刑事記録に基づく主張は、刑事記録の入手に手間がかかるのはもちろん、実況見分調書の分析にもある程度の専門的な知識が必要になるため(実況見分調書の記載内容から走行速度を逆算したり、相手方の主張の矛盾を指摘したりすることはよくあることです)、弁護士が介入していないと難しいことが多く、本件ではこの点からも弁護士への依頼が、依頼者の安心とともに、早期解決につながったものと思われます。

バイク事故は重症を負いやすく、過失割合でも揉めやすい。「現地調査」が重要

バイク事故は当然のことながら自動車事故に比べてバイク側が受傷しやすく重症を負いやすい事故類型です。広島県でもバイク事故の発生件数はここ3年間(令和5年~令和7年)700件前後で推移しており、負傷者全体に占める重傷者の割合も、30%超(車も含む全事故における同割合は15%前後)と割合が多く、この統計にも表れています(引用元 広島県警察HP 675384.pdf)。

事故による損害が大きくなるとその分、過失割合による影響も大きくなるため、過失割合についてはよりシビアに交渉していかなければなりません。

広島は、主要道路である国道2号線をはじめ、国道54号、国道185号、国道183号、国道486号等でバイク事故を含む多くの交通事故が発生しています。

過失割合の立証には、現地調査が極めて重要になります。現地調査によって手元にある資料だけでは分からない多くの事実(道路の見通し、交通量等)が把握できます。また、早い段階で証拠収集をすることも重要なポイントです(ブレーキ痕、防犯カメラの映像等は時間の経過によって消えてしまうことがあります。)。

バイク事故に遭われた場合は、少しでも早く地元の弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士法人ラグーン 広島支店(広島弁護士会所属)
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